美しい和菓子の世界
「上生菓子」や「茶席菓子」と呼ばれ、上等で高価なお菓子は上生菓子、山水や花鳥などを表現したお菓子で、茶席に使われる主菓子(上生菓子)や干菓子などは茶席菓子と和菓子の世界では分けられています。ちなみにどらやきや大福などは並生菓子です。
茶席菓子とは
茶道には懐石、濃茶、薄茶でもてなす「茶事」とよばれる正式な茶会があります。そこで使われるのが、「主菓子」と呼ばれる上生菓子で濃茶に、干菓子は薄茶に使われています。濃茶も薄茶もどちらも抹茶です。そこで使われるお菓子が茶席菓子ということになります。
上生菓子とは
茶の湯とともに発展してきたとも言われる上生菓子は山水や花鳥などを表現し、「菓銘」とよばれるお菓子の名前、テーマのようなものがあります。菓銘を付けることによって何を表現しているのか、見て、感じて楽しむようになっています。
上生菓子といえば、練り切りでしょうか。あとはこなし、外郎、金団、羊羹、薯蕷饅頭などを使うことが多いですね。
現代では茶道をされている方か、京都などでは新年のあいさつに上生菓子を…という感じで特別なときに出したりあげたりするもの…という風になってきました。あとは練り切りアートと呼ばれる作品として見ることもありますね。
お茶菓子として
いつも作らせていただいてるのは「お茶菓子」茶道のおけいこに使われているものです。なので「お茶菓子」と呼んでいます。(現在お茶菓子のご注文は承っておりません)
おけいこに使っていただいているお菓子は私がテーマ(菓銘)を決めて作っています。なのでその時期にあったものを意識しています。
時にはお客様からこういうテーマでとお題を出されるような感じの注文もあります。その時にはどういう状況で使われるのか?子供さんはいるのか?年配の方なのか?お友達の集まりなのか?とお伺いして相談してから考えるようにしています。
お茶菓子の種類
今まで作ってきた中でですが、ではどんなものなのか?を簡単に説明を載せておきたいと思います。
目次
お茶菓子
干菓子
練り切り
関東ではおもに練り切りで、関西ではこなしと言われていましたが、今ではどちらも使われていたりします。
白あんにつなぎとして求肥を加えて練ったもの。求肥をいれることによってのびがよくなって細工がしやすくなります。中のあんはこしあんとの組み合わせが多いです。
山芋をいれると薯蕷練り切り、百合根をいれるとかなり高級な百合根練り切りとなります。芋が入ると練り切り自体の色が白くなり、白くしたい時や味わいもよくなるので芋をいれているところが多いです。
百合根はそれ自体高級で、使える部分も少ないのでめったにお目にかかれない練り切りです。お正月だけ限定でとかで販売しているところもあるけれど、なかなか見たことないです。薯蕷練り切りよりもかなり味はいいとのこと…。お目にかかったらぜひ食べていただきたい希少な練り切りです。
こなし
白あんに小麦粉、上用粉、上白糖などを入れて蒸しあげてから、手にシロップをつけてこねていきます。このこねる→こなすからきています。練り切りよりも固く、食感がもちもちしています。京都はこなしが多いですが練り切りよりも固いので細かい細工には向いていません。
もともと京都は、抽象的でシンプルなデザインが好まれると言われているので細かい細工の必要はないのかもしれません。
外郎
米粉、上白糖、葛粉などを蒸したもっちりしたお菓子です。
名古屋で有名な「ういろう」は枠で蒸して切ったもの。これはお茶席用にあんを包んで上生菓子として仕上げたものです。
色を付けて使ったりしますが、つつむとほんのり中のあんが透けて映るので白あんにすることが多いです。
包んでしまうだけでなく、のばして、丸い型でくり抜いて畳んで仕上げたりすることもあります
求肥
もち粉に砂糖と水飴を加えて練り上げたお菓子です。甘いおもちです。
上の写真は花びら餅ですが、色を付けて花の形にしたり、焼印を押したりしてお茶菓子に使っています。おもちなので中の餡はなんでも合います。こしあんにしたり、白あんにしたり様々です。
羊羹金団
金団(きんとん)はそぼろ状に裏ごしたものをあんにくっつけたものを差します。なので、羊羹を使ったり、山の芋を使ったり、練り切りを使ったり様々です。中のあんは主につぶあんを使うことが多いです。くっつきやすいからかな?
餡に砂糖、寒天、水飴などを練って固めたものです。普通の羊羹よりも少し固めに練って、裏ごしてもしっかり形が残るようにします。
薯蕷金団
山の芋を切って蒸してから裏ごし砂糖を少しづつ入れながら練り上げていきます。白あんも加える場合もあります。芋そのものの味わいなのでかなりおいしいです。
練り切り金団
練り切りを金団で表現したいときに使います。この場合中をこしあんにしたりします。こしあんのほうが合うので。
羊羹
上の写真は流し合わせと呼ばれる手法で、下は羊羹、上は村雨と別のものを合わせて流すものをいいます。村雨のほかに、かるかん、錦玉、浮島などを組み合わせたりします。ただ、いつものお茶菓子ではあまり作りません。
餡に砂糖、寒天、水飴などて練ったもの。栗や抹茶など様々な味や色を変えて作ります。
村雨
餡の水分を飛ばして練った「火取りあん」に砂糖、上新粉、もち粉などを混ぜ合わせて、そぼろ状に裏ごし枠に入れて押したものを蒸したお菓子です。あんの水分をとばしてあるのでホロホロな食感です。
錦玉(きんぎょく)
寒天、砂糖、水飴で固めたもの。砂糖が多いほど透明度が増します。色を付けて何層にもながしてグラデーションのようにしたり、仕上げに使ったり、いろんな用途に使います。葛を入れた吉野羹や上南粉を入れた上南羹などもあります。
浮島
卵白と砂糖を泡立てて、小麦粉、上新粉、餡などをいれて蒸し上げたお菓子。スポンジのような感じだけど、餡が入ってるうえに蒸すのでしっとりした食感です。薄く流して蒸してから巻いたりして使ったりもします。
かるかん
すり下ろした山芋に砂糖を加え、かるかん粉を混ぜて蒸したお菓子。焼酎や日本酒などで風味をつけたりします。真っ白な生地に蒸しあがります。雪を表現して使ったりします。鹿児島で有名なあのかるかんですね。
薯蕷饅頭
すり下ろした山の芋に砂糖を加え、薯蕷粉を混ぜ込んで生地を作り、あんを包んで蒸し上げたお菓子です。紅白饅頭などに使われたりします。饅頭といえばコレ!って感じです。これ割と難しくて、混ぜ具合によって蒸しあがりが全然違ってきます。同じ分量でもです。
粉を入れるタイミングや練り回数、力加減から温度や湿度にまで左右されてしまいます。生地の仕上がり具合も音やら手触りやらで判断するしかない難しいお菓子です。
お干菓子の種類
お干菓子とは
お干菓子は和三盆糖や落雁と呼ばれるものから、すはま、琥珀糖など半生菓子という部類の一口菓子を総称して呼ばれることが多いです。
干菓子や半生菓子と呼ばれるのは水分量によって種類が分けられています。
茶道に使われる一口菓子は、種類関係なく「お干菓子」と呼ばれることが多いので、細かい分類は置いといて、ここでは一口菓子のお干菓子としてよく作っているものを載せておきたいと思います。(お干菓子はかなり種類があるので、作っているのはほんの一部です)
干菓子
和三盆糖
和三盆と落雁は写真のような「木型」で打つお菓子です。型にはさまざまな種類があり、木型職人と呼ばれる職人さんの手彫りです。日本にはもう数人しか存在していないです。桜の木が使われることが多く使い込むほどなじんでくる道具です。
和三盆糖は徳島県や香川県などで今も生産されている、日本独自の砂糖です。
竹糖とよばれる砂糖きびから作られ、盆の上で三度研ぐ(練る作業工程)から名がつけられたと言われています。現在でも手作業で作られているところもあり、最高級な砂糖と言われています。独特の風味のある味わいです
和三盆糖は水と水飴を同量で沸騰させた「しとり」とよばれるものを入れて混ぜ合わせて型で打ったシンプルな作り方です。水だけで打つところもあります。
その「しとり」の量は決まっていません。職人の手の感覚だけで判断します。湿度が高い時や乾燥した時などは「しとり」の量を感覚で調節しないと口どけが悪くなったり、固すぎたりします。打つときも早くしないとどんどん乾燥していくのでスピード勝負です。
落雁
落雁は、砂糖に「しとり」をつけてから、寒梅粉、味甚粉とよばれるもち米を加工した粉を入れて混ぜ合わせ型で打ったものです。
ほぼ砂糖ですが寒梅粉や味甚粉などのもち粉の風味が加わった味わいです。
ここにきなこを入れると「豆落雁」と呼ばれます。砂糖をもち粉で固めるだけなので、黒糖をいれたり味をアレンジすることができます。
切り出し
切り出しは落雁と同じ材料ですが、「しとり」を使わず「白あん」を代わりに使います。切り出しという名の通り、型にはめて打つのではなく、枠に何層かに重ねたものを包丁で切って仕上げます。
あんこを使う、しっとりした仕上がりなので包丁で切ることができます。写真のは5色に染めたものを1層1層押し重ねて切って虹のように表現したものです
食べたときも落雁よりもしっとりしています。味は同じかな。
一口羊羹
羊羹をアレンジしたものです。餡、寒天、砂糖、水飴を練ったものですが、普通の羊羹よりも水飴を多く、固く練り上げてあります。型で抜いて表面を乾燥させています。水飴が多く入っているので成形できたりしますが、型抜きすることが多いです。
白あんに色を付けて練るといろんな色と形で表現することができます
すはま
すはま(州浜)はすはま粉(大豆を炒って挽いたもの、きなこよりも色が薄い)に砂糖と水飴を入れて練ったものです。
元は浜辺と入り江の姿を表した「州浜形」や家紋の「州浜紋」からきていて、別名「豆飴」とも呼ばれています。
州浜型で棒状の棹菓子の分類だったのですが、今は大豆粉から作ったものを「すはま」「すはま団子」と呼んでいます。ねっとりした大豆の風味のあるなんだか懐かしい味わいのお菓子です
琥珀糖
琥珀糖は寒天に、砂糖、水飴を入れて固めたお菓子です。乾燥させると表面が乾いてしゃりっと、中はぷるっとした食感になります。
元は透明の寒天をクチナシの実で琥珀色にしていたことから琥珀糖と呼ばれるように。今は乾燥させてしゃりっとさせたものを琥珀糖と呼んでいます。
夏によく見かける「錦玉(きんぎょく)」も琥珀と同じ種類で、江戸時代は「錦玉羹(きんぎょくかん)」の名の方を使っていたとか。今は「錦玉羹」は透明なぷるんとしたゼリーのようなものを呼ぶことが多いです
寒氷
寒氷は「すり琥珀」とも呼ばれ、琥珀糖をかき混ぜて再結晶化させたものを言います。写真では左端のおばけの形をしたものが寒氷です。再結晶化とは簡単にいえば、一度溶かした砂糖を再び砂糖にもどすようなことです。砂糖の性質を利用した方法で、これ説明すると専門的なことになるので、ここでは省略します。
琥珀糖は透明感をそのままにするためできるだけ静かにつくるのに対して、寒氷はわざと混ぜて再結晶化させ、乳白色にしています。琥珀よりも砂糖も多めです。
ただこの作り方だと失敗が多いので、「すり蜜」と呼ばれるものを錦玉羹に入れて作っています。すり蜜は砂糖と水を煮詰めて冷ましたものを急激に混ぜることによってクリーム状の白い蜜ができます。これを入れて乳白色にしています。
外はしゃりっと中は琥珀よりもねっとりな感じのかなり甘めなお菓子です。
雲平(生砂糖)
雲平(生砂糖)上の写真では紅葉の葉で作っています。関東では雲平、関西では生砂糖(きざと)と呼ばれています。
寒梅粉と砂糖と蜜を合わせて練り薄くのばして型で抜いて乾燥させたものです。薄くすればするほどパリッとなりますが、壊れやすいです。作るときは薄すぎないようにしてパリッとはなりませんが、口の中でゆっくり溶かして食べていただくような厚さにしています。(持っていく途中で壊れないようにするためです)
工芸菓子とよばれるものにも使われたりします。他にも餡平やぬくめなどがあります。食べる用ではなく観賞用で使用します。
これはほんの一部です
一人前になるには洋菓子5年、和菓子10年と言われています。
和菓子が10年と言われるのは種類や製法があまりにも多いため、一通り覚えるだけで10年はかかると言われているからです。
紹介させていただいたのはほんの一部でまだまだあります。よく使っていたり和菓子屋さんで見かけるようなものをチョイスしてみました。